第一部


第1章

窓の外は雨が絶え間無く降り注ぎ辺りを濡らしていた。

俺の名前は新谷俊、今はまさに青春真っ只中の高校一年だ。
何故俺がこんなとこにいるかっていうと、俺が通っている高校の始業式が終わり、家へと帰る途中、偶然通り掛かった母校に寄り道していこう、という軽い気持
ちからだ。
校舎の中に入ると同時に雨が急に降り始めた。
相当強い雨だったのでしばらく雨宿りをすることにした。俺はちょっとした思い付きでつい最近まで勉強していた教室へと足を運んだ。教室には誰もいないらし
く、教室の中は薄暗く、薄気味悪い空気が漂っていた。
それのせいなのか俺はあることが思い出された。 


あれは中一の秋の始め、始業式が終わってクラスの連中がみんな帰ったときだった。山崎は自殺しようと首を吊った。
たまたま見回っていた教師がすぐに発見したので一命は取り留めたものの、植物状態になってしまい、今でも病院の一室で生と死の狭間で眠り続けている。
山崎は普段からみんなに慕われるいい奴だったのに何故自殺しようとしたのか、今でもその真相は明かされてはいない。


ふと、時間が気になり腕時計を見るとどうも電池が切れたようで秒針が止まってしまっていた。溜め息を吐きながら教室に備え付けてある時計を見ると五時二十
三分を指していた。
雨もやんできたしそろそろ帰るか。
鞄を肩に掛け教室を出ようと扉の方へと行こうとしたその時、誰もいないはずの廊下から足音が聞こえた。足音は徐々に俺の居る教室へと近づいて来た。
俺は側にあった用具庫に音もなく隠れた。
理由は・・・まぁ、なんというかちょっとした出来心で、入って来た奴を驚かそうと思った、それだけだ。
扉を閉め、扉についていた僅かな隙間から教室の引き戸が開かれるのを待った。
足音はこの教室の前で止まり、そして誰かがゆっくりと扉を開き入って来た。
入って来たのはこの学校の制服を着た少年であった。
制服はシワだらけで所々汚れていてお世辞にも綺麗とは言い難い姿だ。
その姿を見て気の毒に思い、驚かすのを止めやり過ごすことにした。
少年は辺りに誰もいないか確認するかのように辺りを見回しながら明かりを付けた。少年は何に怯えているのか背中が震えていた。少年はすぐ近くの席に鞄を起
きなにかを取り出した。
どうやら写真の様だ。
それを見ながら少年は肩をふるわせていた。腕で顔をゴシゴシとこすりそして俯けていた顔をあげ、またなにかを取り出した。
その何かは体の影に隠れていてよく見えない。
何を出したのかよく見ようと目をこらすと少年の影からなにか紐のようなものがはみ出していた。
それはロープだった。
まさか。
俺は飛び出して少年を止めようと飛び出そうとしたが、扉は開かず、叫んでも少年には全く声が届いていないようで反応がなかった。
そうこうしているうちに少年は天井にロープをぶら下げ机の上にのった。少年は誰か自分を止めに来てくれはしないかとでも思っているのか机の上で教室の扉を
見ていた。
その僅かな時間を俺はとても長く感じ、額から出た汗が頬を伝って流れ落ちるまでの時間さえもえらく長く感じた。
誰も来てくれなどしない、そう思ったのか少年は足をゆっくりと虚空へとのばしていき、そして両足は机から宙へと飛び出した。

体は一瞬宙に浮いているかのように見えた。そして俺には少年が墜ちていく様子がまるでビデオをスローモーションで見ているかのように長く感じた。
死という名の奈落の奥底へと墜ちていく様を。
ロープは少年の首を容赦なく締め付けていった。
その苦しみに喘ぐ少年は足をバタバタとさせていた、しかし、死は容赦なく少年を苦しめながら引きずり込んでいった。
身もだえている少年の体はほんの僅かに用具庫の方へ向き、ちらりと顔が見えた。
その顔は苦悶の表情を浮かべていた。
俺は少年の顔を見たその時、脳裏に浮かんだある一人の友人と重なった。頭では有り得ないとわかっている。しかし俺の目そして心は間違いなくあいつだとかた
っていた。
俺は扉を渾身の力をこめ蹴りつけた。さっきまでびくともしなかった扉は大きな音を立てて開いた。何で今になって開いたのか、そんな疑問も今この瞬間には何
の意味ももたなかった。
扉を蹴り開けると同時に叫んだ。「山崎!!」

「何をいっとるんじゃぁぁぁ!!」
へっ?
何が起きたか理解する間もなく頭に強烈な鉄拳をもろにくらい痛みが体中を駆けずりまわった。
「痛ってぇぇぇぇぇ!!」
「まったく、何をしとるんだお前は。」
頭を押さえて痛みと戦いながら見上げるとそこには中学時代数学を教わった岸田が立っていた。
岸田は校則違反をした奴の頭をぶん殴るという普通の教師には真似出来ないよう
なことをする老教師だ。その歳からは考えられない力で放たれるげんこつから当時は鉄拳というあだ名が付けられていた。 
「何で鉄拳が見回りなんか・・・」
「ん、なんか言ったか?」
「い、いや別に何もいってません!」
あぶねぇあぶねぇ、聞かれてたらもう一発喰らうとこだった。
「とりあえずもう帰れ、それと学校にきたんだったら挨拶ぐらいしろ。」
しゃべりながら俺の耳を引っ張りながら歩き出した。
「痛い痛い痛い、ちょっ自分で歩くからマジで離して!?」
結局やられるのかよ・・・。

第2章

岸田に学校から放り出され家へと帰る途中、校舎で見た事を思い出しているとさまざまな疑問が浮かびあがってきた。
なんであんな光景が見えたのだろう。そんな事をずっと考えていたせいか、気が付いたらもうベットに寝転んでいた。
やっぱ幻覚でも見てたのかな、そんな事ばかり考えながら夢の中へと落ちていった。


辺りは暗く何も見えなかった。
なにかに導かれるように俺は暗闇の中を歩き続けている。
そして歩く道の脇にはまるでスポットライトで照らされているかのような明るい場所があった。そこでは様々な事が行われていた。
喜ぶ人もいれば悲しみにくれる人もいた。その中に一人膝を抱えうずくまっている少年を見つけた。気になって近づこうとしたその時、少年は涙に濡れた顔を上
げ、腕で涙を拭いた。
その時見えた顔は涙で濡れぐちゃぐちゃになっていた。だがそんなになっていてもその少年が山崎だとすぐにわかった。
駆け寄ろうとしたが山崎は明かりと共に闇の奥へと消えていった。呆然としながら山崎が消えていった方を見ているとどこからか歌が聞こえ始めた。

いつまでそこにいるのかな
どうしてそこにいるのかな
いつまで何を考える
いつまでそこで怯えてる
いつまでそこで待っている
早くこっちに来ないかな
こっちへおいでさあ早く

そう繰り返し歌い続けていた。
歌を歌う主を捜し歩いていると宙に浮きながら歌う男の子が目に止まった。
男の子は俺に気付いたようで宙から俺の側へと降り立った。
「君はまだ来るには早過ぎる。」そういって俺を突き飛ばした。
俺はあるはずのない穴へと突き落とされ、闇に吸い込まれていきそして・・・

背中に痛みを感じ目を覚ました。どうやらベットから落ちたようで床に倒れていた。
べとべととした感触を感じた。
服を見ると寝汗でびっしょりと濡れていた。
服を脱ぎながら時計を見ると午前五時二十三分を示していた。
「変な夢見ちまったな・・・」
口にだしながら俺は学校へと行く準備を始めた。

「新谷!おっはよう!」
背中を叩きながら挨拶をしてきた。振り返るといつもながら満面の笑みを浮かべた大野がいた。
大野順平、こいつはうちの学校の情報通でいろんな奴に情報を売る奴だ。まぁ、俺はあいつの弱みを握ってるからただで情報を手に入れられるけど。ちなみにあ
だ名は文屋からとってブンという風になっている。
「ん、今日もハジケてんなブン。なんかいいネタでも手に入れたのか。」
「イエス!!昨日大量に新ネタ仕入たんだぜ。まぁ、一つはホントかどうか知んねーけどよ。」
「ふーん、で、どんなんだ?」
頭をポリポリと掻きながらブンは話続けた。
「なんか最近広まった噂で、なんでも至る所で謎の奇怪現象が起きてるって話だ。」
またそういう信憑性にかけるやつかよ・・・どうせつまんねぇ噂だろうけど一応聞いとくか。
「ふーん。で、どんな内容なんだ?」
「それがよう、体験談を聞くには過去の出来事を見たっていう話だ。」
・・・!!
「ま、どーせ空想好きの馬鹿が触れ回ってるだけだろうけど。それよりもっといいスクープがあるんだぜ。D組の河野と菊地ができてるって噂だぜ。まさかあの
仲が悪かったあいつらがくっつくなんて、なぁお前もそう思うだろ。それとな・・・」
横で勝手にしゃべり続けるブンをよそに俺はブンが最初に話した噂について考えていた。
まさか俺以外にも怪奇現象を見たがいるとは・・・少し探りを入れてみるか。
「それでよう、小林の奴実は・・・」
「ブン!」
「ん!?なんだよ、今から一番おもし・・・」
「明日までに最初に俺に話した噂、もっと調べといてくれ。それとその怪奇現象が起きた場所も調べとけ。」
「はぁ!?なに言ってんだよお前。ま、別にいいけど出すもん出してもらわなきゃねぇ・・・」
「そうか・・・あっ、あんなとこに今井恭子がいるな〜。」
横目でブンを見ながらブンに聞こえるくらいの声で呟いた。
「しょ、しょうがねぇな!友達のよしみでタダで調べてやらぁ!」
上擦った声で依頼に応じるブンを見ながら俺はニヤリとした。もちろん心の中だけで。
やっぱし弱みは握っておくもんだよな。
「そうか、悪いな気使わせて。ありがとよ。」
そう言って俺は一足先に学校へと向かった。歩きながらブンの方をちらりと見ると悔しそうにしていたが、横を今井が通るとあいつは今井に見とれていた。

俺は心の中でほくそ笑んだ。
今度はこのネタでブンを動かすか。
そんなことを俺が企んでるとも知らずにブンはただひたすら今井のことを見続けていた。


ちらりと腕時計を覗くと七時五十分を指していた。
教室に入ろうと引き戸を引いた。辺りを見回すと仲がイイ奴同士固まってそれぞれ好きなことをしていた。
まだあいつらきてねぇみてーだな。
「よっ、新谷。」
ふりむくとそこには大野和人を中心とした三人がポーカーをしていた。
「ちっとやらねぇか?」
カードをきりながら大野は誘ってきた。
暇潰しにはちょうどいいか。
「いいぜ。やってやろうじゃねぇか。」

第3章

ガラガラガラ・・・
引き戸が開かれる音が響いた。
ん?
振り向くと普段からよく話している小泉将大が自分の席へと着こうとしていた。
「あ、小泉来たから俺ぬけるぜ。」
「ん?ああ、わかった。」
カードを凝視しながら大野は応えた。
「ういーすっ!!どうよ調子は?」
挨拶しながら近くの机に腰掛けながら話しかけた。
「う〜ん、いまいち。」
小泉は机に突っ伏しながら眠そうに目を擦りながら応えた。
「まーた夜更かししてたのか?」
「ん、いや昨日はマンガを読んでて遅くなっただけ。」
結局は夜更かししてんじゃん・・・
「ふーん、で、アレ持ってきたか?」
小泉はつい先程までとろんとしていた目に鋭い光を点し辺りを素早く見回した。
そして目で近付くように俺に指示した。
俺は小泉の指示通り顔を近付けた。
「たしかに今持っているが・・・提供したのが俺と言わない条件だからな。」
不安げな声で小泉は言った。
「ああ、わかってる。」
小声で返事をすると小泉はまた素早く辺りを見回した。
誰も気にしていないということを確認しているようだ。
小泉は確認し終わると懐からSDカードを取り出し俺に握らせた。俺は素早くそれを胸ポケットに納めた。そして小泉の方へと向き直ると、まるでさっきからず
っと寝続けていたかのように寝息を立てていた。
俺は小泉を起こさないようにしながら自分の席へと戻った。
時計を見ると八時十分を指していた。






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